巷で噂のコーポレートガバナンスNEWS
朝8時から夕方5時まで、『機械になって』働く。それが仕事。仕事、というにはあまりに単調な作業だけれど、仕方がない。もうこんな歳では他に雇ってくれるところもない。給料だってまともに生活出来るかどうかの瀬戸際で、最近は食事も質素なものしか食べていない。外食なんて何年していないんだろう。新しい服なんてのも、何年も買っていない。ただひたすら、どうにか生活をつなぐだけ。それこそ『機械になって』生きているような気分。それが、一時はもてはやされた『ハケン』の実態だった。今作っているのは、海外に輸出する製品に使う部品らしい。ひたすらスピードと数を求められ、それが何に使われるのかなんて考えているヒマもない。どんな人がそれを買って、使うのだろう。見たこともない誰かの幸せな生活を考える代わりに、1クール2時間の作業中、頭の中で昔見た映画を『再上映』しながら時間を潰す。たまに、この先どうなるんだろう、という考えが浮かぶけれどそんな時は『お気に入りのシーン』を何度も繰り返した。そうやって何ヶ月働いた頃だろう。どうにか生活も安定して将来を考える余裕が出来始めた頃、日勤で働いていた作業者が夜勤に回され始めた。それに合わせるようにして一日の出荷量も徐々に減り始め、気が付けば工場内の人間の数は、以前の半分以下になっていた。「ヤバイかもしれないよ」そんな声が休憩時間にそこかしこから聞こえてくる。「早く次の仕事探さなきゃ」「この歳で今から転職もなぁ」「派遣会社が何とかしてくれるよ」「あいつ、今月いっぱいでクビらしいよ」「私、来月で終わりって言われちゃった」「子供がいるのに」「来月からどうやって生活していこう」不安と疑念は際限なく広がっていくだけだった。その日の夕方、派遣会社の営業担当が珍しく工場に顔を出した。あれ、コイツこんな顔だったけ。作業をしている横に来て、声をひそめて言う。「帰る時、食堂に寄ってください。今後のことで話があります」顔色を見ただけで、何を言うのか既に予想は出来た。俺にも順番が回ってきたんだ。それから終業のチャイムが鳴るまで、どこか地に足がつかずふわふわして、お気に入りの映画が『上映』されることはなかった。失業者数が軒並み更新されるのをニュースで見るたび、この中のひとりが俺なんだ、と思う。登録していた派遣会社は倒産し、新たな会社に登録したけれどこの先、仕事が入ってくる見通しもない。こんな歳で、新たに仕事は見付かるだろうか。